書籍「河川工学者三代は 川をどう見てきたのか」発売中です。
1月からの事前予約にはたくさんのお申込みをいただきありがとうございました。
3月末に無事出版することができ、書店等で販売をしています。
新潟水辺の会顧問の大熊 孝先生、大熊先生が師事した高橋裕先生、さらに高橋 裕先生が師事した安藝 皎一先生と三代の河川工学者の生き方や学術的な歩み、また近代河川行政 150 年と、それに関わった河川技術者・工学者が川をどのように捉えてきたかを篠原 修東京大学および政策研究大学院大学名誉教授の執筆による書籍「河川工学者三代は 川をどう見てきたのか 安藝皎一、高橋裕、大熊孝と近代河川行政一五〇年」が出版されました。
たくさんの事前予約をいただきましたことを御礼申し上げますとともに、ご興味をお持ちの方はぜひお買い求め下さい。
書名:「河川工学者三代は川をどう見てきたのか 安藝皎一、高橋裕、大熊孝と近代河川行政一五〇年」
著者:篠原修
発行日:2018年3月30日
発行:(株)農文協プロダクション
販売:(一社)農山漁村文化協会(農文協)
定価:本体3,500円+税
田舎の本屋さん、Amazon.co.jp、お近くの書店等でお買い求め下さい。
以下、宣伝チラシからの転載になります。
【本書の内容】
本書には二つの主題(テーマ)がある。一つは、安藝皎一(1902~1985)高橋裕(1927~)、大熊孝(1942~)とつながる河川工学者三代のユニークな生き方と学の歩みを評伝のかたちで描くこと。もう一つは、この三人の行動と発言を手がかりにしながら、近代河川行政 150 年と、それに関わった河川技術者・工学者が川をどのように捉えてきたかを描くことである。
大熊は高橋のもとで、そして高橋は安藝のもとで河川について学んだ。技術官僚から政策官僚となった安藝皎一、歴史家、論説家にして土木のスポークスマンの高橋裕、そして市民の河川工学者、大熊孝とそれぞれ立ち位置は異なるが、河川改修史に重点を置いた歴史的現場的な視点をもちつづけ、明治以降の近代河川行政に批判的な立場をとりつづけた点では共通する。河川工学者三代とよぶ所以もそこにある。
希代の三人の河川工学者を通じて、近代河川行政の目標と到達点、そして環境や景観、脱ダムや河川整備計画への住民参加など、今後の課題を明瞭かつリアルに描く本書は、技術者、研究者、行政関係者はもちろんのこと、河川に関心をもつすべての人にとって必読の書である。
【著者紹介】
篠原修:1945 年生まれ。東京大学工学部土木工学科卒。東京大学および政策研究大学院大学名誉教授。工学博士。GS(グラウンドスケープ) ザイン会議代表。著書『土木造形家百年の仕事』(土木学会出版文化賞 受賞)『土木デザイン論』(土木学会出版文化賞受賞)『都市の水辺をデザインする』(編共著)ほか多数。
【本書の主人公】
安藝皎一:1902 年生まれ、1985 年没。内務省、東京帝国大学教授(兼任)。資源調査会初代事務局長、関東学院大学工学部教授、日本河川開発調査会会長等を歴任。著書『河相論』『河川工学』『日本の資源問題』『水害の日本』『日本思想体系 62 近世科学思想 上』(校注・解説)ほか多数。
高橋裕:1927 年生まれ。東京大学第二工学部土木工学科卒。日仏工業技術会会長、東京大学名誉教授。著書『国土の変貌と水害』『都市と水』『地球の水が危ない』『川と国土の危機』『現代日本土木史』『川から見た国土論』『河川工学』ほか多数。
大熊孝:1942 年生まれ。東京大学工学部土木工学科卒。新潟大学名誉教授。工学博士。NPO 法人「新潟水辺の会」顧問。新潟市潟環境研究所所長。著書『利根川治水の変遷と水害』『洪水と治水の河川史』『川がつくった川、人がつくった川』『技術にも自治がある』ほか多数。
【「はじめに」より】
……大熊は専門外の人間は知らないであろうが、河川の分野では知られている人物である。
特に脱ダム派の学者として。ただし有名になったから書こうとするわけではない。DR 論文以来一貫して建設省、国交省の河川行政を治水計画の観点から批判し、とりわけて優れているのは、地道な現場調査と考察に基づいて「大熊河川工学」を築き上げたことである。更に言えば、時の権力や権威におもねる事なく「拙」を貫いてきた姿勢に共感を覚えるからである。
「拙」という生き方は筆者が最も尊敬する夏目漱石が最も重視していた姿勢であった。
……大熊に聞き、資料を調べると、大熊のような人物が俄かに出てきたわけではない事に気づかされる。大熊の先生である高橋裕も建設省の河川行政に批判的な学者で、大熊は高橋の講義に触発されて河川の途を選んだのだった。高橋無くして今の大熊は無いのである。その高橋に聞くと安藝皎一先生が居なければ、河川をやっていなかったと言うのである。やはり高橋も安藝に惹かれて河川の途を歩み始めたのであった。かくして大熊を描こうと考えた評伝は、必然的に安藝、高橋、大熊の河川工学者三代の評伝となった。
……どうせ書くなら安藝が、高橋が、大熊が批判の対象とした明治以降の近代河川行政とはいかなるものだったのか、それを知りたくなる。必ずしも安藝以下の批判が常に的を得ているかどうかは分からないが、それも筆者なりに判断してみたい。「やめたほうが」という声が耳元に響いた。一応土木工学科で学んだとは言え、河川については素人なのだから。
……でもやってみようか、という気持ちになったのは土木技術者の評伝を書いている作家が、おしなべて文系の出身で土木の理論や技術に疎く、肝心だと思われる点に突っこみが不足し ていると不満を感じていたからかもしれない。筆者は丁度、碁や将棋で言う「岡目八目」の 位置にいる。全くの素人でもなく、プロの当事者でもない方が戦局がよく見えるという事も あり得る。こういう具合に自分を納得させて、無謀な執筆に取り掛かったのであった。
【目次】
【大熊孝先生からのコメント】
河川行政を通史的に書いた本としては、西川喬著「治水長期計画の歴史」(財・水利科学研究所、昭和 44 年 11 月発行)ぐらいしか私は知りません。これは、昭和 39 年の河川法改正直後に書かれたもので、水資源の動向についてはほとんど触れていません。ましてや平成 9 年の河川法改正後の環境や景観を含めた、河川行政史はまだ皆無です。
篠原さんのこの本は、平成 9 年の河川法改正も踏まえた形で論述されており、出版されれば画期的と言えるのではないかと思います。
この本には、これまでの河川行政、河川工学に批判的な内容も書かれています。しかし、土木技術者の「心」――技術者としての良心・矜持はもちろんのこと当事者としてのつらさも含めて――とでもいうものを理解している、土木屋である篠原さんが書かれているという点でも画期的とも言えるのではないでしょうか。
篠原さんの今回の本が出ることによって、土木屋自身、そして世の中からの土木に対する目も変わっていくのではないかと期待する次第です。
【チラシ】