2012年「水枯れの信濃川・千曲川に鮭の道を拓く」鮭遡上報告-2

信濃川中流域の鮭遡上の記録更新中(2012.10.30)

 

現在、信濃川中流域では戦後最多の鮭の遡上が起こっています。10月29日現在260尾を数え、戦後最多の遡上数を更新しています。そして、昨年戦後最多記録の35尾の遡上記録を作った長野県西大滝ダムでしたが、今年は先週始めまで4尾と振るわない結果でした。だが先週末に6尾が遡上し、合計10尾が千曲川上流へ旅立っていきました。
尚、10月20日までに新潟県に報告された新潟県内の内水面漁協の鮭の捕獲実績は、昨年対比45.1%でした。(海水温が高かったこともあり、今年は5,481尾(昨年12,159尾)で、鮭の遡上時期が遅れていると思われる)

 

読者の皆様にすれば、たかだか260尾の鮭が十日町まで遡ったと思われるかもしれませんが、これだけの鮭が信濃川に遡ってきた事は、信濃川の河川環境が徐々に良くなってきた事と、微力ながら当会が行ってきた鮭稚魚の市民環境放流の効果が現れて来たと思っています。
 

少し信濃川について説明させていただきます。

信濃川は、甲斐(山梨)・武蔵(埼玉)・信州(長野)の 三国の境に位置する甲武信岳(2,475m)に源流を発する流路延長367km、年間流量160億㎥、流域面積11,900k㎡ を有するわが国最大の河川です。上流部長野県内では千曲川と呼び、新潟県では名前が信濃川となります。


 
下記の図は、大正9年以前の源流・甲武信ヶ岳から最下流の新潟までの信濃川の平均流量を現しています。源流では1滴の水が、支川の犀川や魚野川が合流することで最下流の新潟では川幅1kmの大河となるのです。

 

信濃川の上流から下流への流量増減の時代的変遷概念図

 

(近年の平均的流量をベースに施設建設を考慮して作成)

信濃川(千曲川)は、平安時代以降わが国屈指の鮭の生産地として知られ、延喜式をはじめとする古文書などに記録されています。長野県の統計によると、鮭の漁獲量は昭和初期(1933年頃)には、年間10t~70t(約3,000~20,000尾)を記録していました。

 

 

 しかし、昭和10年代から始まった電源開発事業により長野県飯山市西大滝に建設した取水ダム(高さ14.2m)が完成した後の1940年(昭15)年以降漁獲量は激減し、1945年(昭20)に長野県の統計資料から鮭の漁獲量を示すデータが消えてしまいました。更に戦後、川を完全に塞き止め、文字通り一滴の水も下流に流さない河道区間(無水区間7.4km)、極端に流量が減少した河道区間(減水区間63.5km)を出現させました。

 
◎西大滝ダム
東京電力(株)の発電用ダムで、下流にある同社の水力発電所・信濃川発電所に送水し、最大17万7,000キロワットの電力を供給しています。しかし、長い間西大滝ダムからの維持流量は0.26㎥/Sであり、ダムと発電所の21km区間が極端な減水区間となっていました。昨年水利権の更新と「信濃川中流域水環境改善検討協議会」の答申により、現在は最低放水量の20㎥/Sが千曲川に流れています。

東京電力西大滝ダムと21km下流にある信濃川発電所の間が極端な減水区間となっていた

 

◎宮中取水ダム
東日本旅客鉄道(JR東日本)が管理する企業私有ダムで、水力発電を目的としており、下流の千手・小千谷・新小千谷の三発電所において合計約45万キロワットの発電を行い、首都圏の大動脈である山手線・中央線などの運転に必要な電力の約23%を生み出しています。2008年9月に発覚した不祥事によって国土交通省から行政処分が科され、水利権が剥奪処分され利用を停止されましたが、JR東日本が信濃川の河川環境との調和と、誠意ある地域との共生により5年間の試験放流を現在行い、今年の記録的な鮭の遡上につながっています。

 

長く維持流量7m3/sであった宮中取水ダム、今は鮭がこの魚道に毎日やってくる


より一層、信濃川中流域の十日町から西大滝ダムまでの65kmの区間が減水区間となった

 

私たち新潟水辺の会の目指す「水枯れの信濃川・千曲川に鮭の道を拓く」活動は、漁業としての鮭漁の復活を直接的な目標とするものではなく、魚や舟が往来できる本来の川に近づけていくためのもので、信濃川水系の水量が回復し、長野で産卵・孵化した鮭の稚魚が安全に日本海まで降り、再び成魚が河口新潟から長野まで遡上できる環境を整え、川の物質循環機能や信濃川の生態系を回復させようとするものです。

皆様のご支援とご協力をお願い致します。

 

宮中取水ダムより下流の河川環境は、以前に比べ良くなっています

3に続く。

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