信濃川・千曲川の鮭を遡上させる活動の状況報告-3
◆「サケ増殖対策事業の記録」
「長野県の千曲川水系にもかつては多数の鮭が遡上し、昭和初期には年間60~70トンが漁獲されていました。しかし、昭和10年代に入って急激に激減し、昭和25年にわずか26kgの漁獲が記録されたのを最後に、鮭は長野県の漁獲統計上から姿を消しました。」
これは下記の「サケ増殖対策事業の記録」平成12年3月、長野県農政部発行の冒頭の文章です。
平成12年3月長野県農政部発行の「サケ増殖対策事業の記録」
昭和初期の千曲川での鮭漁獲量推移
◆長野県の「カムバックサーモン運動」
長野県では、千曲川に鮭を呼び戻そう、鮭が遡上できる河川環境にしようとの目的のもとに、昭和54年度に「カムバックサーモン運動」-サケ復活対策事業をスタートさせ、平成11年度まで21年間事業を実施してきました。この間に累計899万余尾の稚魚放流を行いましたが、累積遡上数は48尾と少なかったなどにより、平成11年度をもって本事業を廃止したとあります。
信濃川・千曲川の減水区間、西大滝ダム
その要因として、ダムからの取水により下流に減水区間が生じ、水量、水深、水温の問題で鮭などの魚類の棲息が困難になったことが挙げられます。
こうした状況の中、信濃川中流域の十日町市、津南町や流域の団体が、毎年「信濃川水なしサミット」を開催し、信濃川に水を戻せと訴えてきました。
ところで、同じく鮭の遡上が一時途絶えた利根川ですが、近年15,000尾以上の鮭が遡上している利根大堰を紹介します。
◆利根川の鮭の遡上
利根川は群馬県みなかみ町にある大水上山を水源として群馬県・埼玉県境を流れ、茨城県と千葉県の境を流れて銚子市の境において太平洋(鹿島灘)へと注ぐ1級河川です。「坂東太郎」の異名を持ち、流路延長は322kmで信濃川に次いで日本第二位、流域面積は16,840k㎡で日本第一位の大河です。
利根川水系と利根大堰
かつて群馬県伊勢崎市付近等でも鮭漁は盛んであったと言います。利根川上流部の沼田市内でも鮭の遡上する姿を見ることができたと記録にありましたが、1955年頃徐々に鮭の遡上が減少し、信濃川同様に1965年頃鮭の遡上が途絶えてしまったとのことです。
◆利根大堰の鮭の遡上
利根川河口から154kmにある利根大堰は、首都圏の用水確保と利根川中流部約29,000haの農業用水を取水するため1968(昭43)年、全長約700m の可動堰が造られ、漁業への配慮から3つの魚道が設置されました。
その後の1971(昭56)年、前橋の市民が中心となって「利根川にサケを呼び戻す会」を結成。将来鮭が利根川を遡上し産卵出来る環境作りのために、河川清掃活動や鮭の稚魚を利根川に放流しました。現在は多くの市民や小学生たちが利根川のあちらこちらで毎年稚魚を放流し、近年は下記のように飛躍的にその遡上数を伸ばしています。
利根大堰における鮭の遡上経年変化図
その遡上状況は下記の独立行政法人水資源機構の利根導水総合事業所のHPにて、日々更新されており、現在も順調に遡上数を伸ばしていますのでご覧下さい。
http://www.water.go.jp/kanto/tone/08sojyo_data/sojyo_main.html
利根大堰を管理する水資源機構も1995~1997年において、従来からあった魚道の大改築(全面越流型の階段式魚道からアイスハーバー型を採用、呼び水水路の設置、鮭の遡上を間近で見られる大堰自然の観察室など)や、鮭の魚体を傷めず鮭の遡上計測のできる自動カウント方式を採用してきています。
2009.12.3に訪れた、利根大堰のアイスハーバー型魚道と魚道観察室内部
鮭遡上増加の要因として、
① 利根大堰の魚道改修の成果
② 鮭保護団体での稚魚放流尾数の増加
③ 鮭回帰数の増加による自然産卵床の増加
などが挙げられています。
◆宮中取水ダム魚道での鮭の遡上
10月28日現在の宮中取水ダム魚道への鮭の遡上は台風などの出水による魚道断水により以前より勢いがなくなりましたが、オス236尾、メス102尾の合計338尾と昨年より多くなっています。
今後も信濃川・千曲川への鮭の遡上状況をご期待下さい。
信濃川・千曲川の鮭を遡上させる活動の状況報告-4へ続く
※この活動は三井物産環境基金の助成を受けて行っています。
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