信濃川・千曲川の鮭を遡上させる活動の状況報告-8
◆ 信濃川・千曲川での鮭遡上調査、宮中取水ダム408尾、西大滝ダム6尾
国土交通省信濃川河川事務所による、信濃川・千曲川での鮭の遡上調査(9月11日~11月10日)が終了し、宮中取水ダムでは過去最高の408匹、西大滝ダムでは6尾(速報値)の結果でした。
宮中取水ダム及び西大滝ダムでの鮭の遡上推移(2009~2013年)
宮中取水ダムでは当初、急激な遡上数(10月7日だけで43尾)があり、500尾の遡上も可能かと思いましたが、途中で台風などの出水で思うように伸びませんでした。だが、昨年よりも100匹以上多い408尾(オス290尾、メス118尾)となりました。
しかし、2011年35尾を記録した西大滝ダムでは、今年6尾(オス 3尾、メス 3尾)の結果でした。はたして約400尾の鮭はどこへ行ってしまったのでしょうか。その要因をいくつか考えてみました。間違いもあるかもしれませんが、今後のどうしたら西大滝ダムを超えて多数の鮭が遡上するのかを考える手だてになれば幸いです。
1、西大滝ダム下流の支川に遡上?
まず考えられるのは、宮中取水ダム上流域の信濃川に流れ込む3本河川に遡上し自然産卵した可能性が挙げられます。十日町市と津南町の境を流れる「清津川」、秋山郷に通じる津南町の「中津川」、津南町と栄村の県境を流れる「志久見川」の3本があり、清津川、志久見川では鮭の目撃情報が寄せられています。
信濃川・千曲川での発電所及び支川の位置図
2、今年遡上した鮭の大半が、大滝ダムより下流で放流した稚魚であった?
鮭は生まれ育った川の匂いを覚えていて、放流された場所近くまで戻るとも言われています。今回宮中取水ダムに遡上した鮭の大半が、西大滝ダム下流で放流した稚魚が成長したもので、西大滝ダムまで遡上しなかった可能性もあります。
今年は宮中取水ダムには9月末という早い段階から鮭の遡上があり、そしてブナの婚姻色が少ない銀系の鮭が遡上していたので、千曲川中流部で3~4年前に放流した鮭が戻ってきて、西大滝ダムを越えて千曲川中流まで遡上するのではと期待しておりました。
今後西大滝ダムより上流に遡上する鮭を多くするには、西大滝ダム上流での鮭の稚魚放流量を増やすことを検討しなくてはなりません。
尚、2011年3月11日に発生した東日本大震災により、電力需要切迫につき東京電力は計画停電を実施しました。その為、西大滝ダムでも電力量を増やすため維持流量を0.26m3/sに引き下げられました。3月中旬、千曲川などに予定していた30万尾の稚魚放流は全て、下流の宮中取水ダム魚道に放流せざるを得ませんでした。
(その後5月1日より、概ね20m3/sの放流に戻されました。)
これらによりその稚魚が大きくなって戻る来年は、西大滝ダムを越える鮭は少なくなることが予想される分、宮中取水ダムへの遡上は多くなると思われます。
3、西大滝ダムからの水量(維持流量20m3/s)について
今年の日本海水温が例年に比べ高く遡上期が遅く9月末に始まり最も遡上した10月初旬から中旬の放流量が、発電所放流口の流量に比較して少なかったのではないか。と思っています。
平成23(2011)年、千曲川へ戦後最多の鮭の遡上をもたらしました。同年10月13日に西大滝ダムに最初の4尾遡上しましたが、その3日前の10月10日、点検のため発電用には取水されず、下の写真ようにダム下流に全量流されています。
これが、鮭にとって遡上しやすい環境(クイック放流)であったのではないかと思います。今後は鮭の遡上時、フラッシュ的な放流を行っていただけると、鮭も千曲川も喜ぶのではないかと思っています。
※ クイック放流は、鮭の遡上を促すために、短時間だけダムからの放水量を増やす放流方式です。事例としては、石狩川水系千歳川(源流は支笏湖)にある王子製紙第4ダムからの放水を、鮭の捕獲期間(8月末から10 月末まで)に限り、夜間の01:00~04:30に放水を13m3/sから18m3/sに増量して、鮭の遡上を促しています。
2011.10.10西大滝ダムのすっかり水の無くなった貯水池写真
2011.11.9西大滝ダム上流を見る
それが呼び水となって下記のように、戦後最多の35尾を記録したものと解釈しています。
2011年西大滝ダム魚道に遡上した鮭の推移
尚、下図は信濃川中流域水環境改善検討協議会配布資料より作成
平成22年 西大滝ダム放流量
平成23年 西大滝ダム放流量
平成24年 西大滝ダム放流量
4、東京電力信濃川発電所放流口に遡上の鮭が停滞か?
2012年9月、信濃川発電所放流口にチェーンカーテン方式の迷入防止装置(写真参照)が設置されました。そのため、それ以上放流口に向かうことが出来なくなったとは思いますが、遡上期の鮭が本流と迷入防止装置付近に迷って停滞している可能性が考えられます。
そこで来年は、遡上期に下流へボート、またはビデオカメラなどを使用し、チェーンカーテンの付近で停滞しているかの確認を、協働で行いたいと考えています。
(東京電力資料-西大滝ダム魚道の紹介を一部使用)
東京電力信濃川発電所放水路に設置されたチェーンカーテン方式の迷入防止装置
発電所放水口左岸より 発電所放水口対岸より
5、西大滝ダム直下の河床低下による段差
昨年の西大滝ダム魚道改修に伴い、西大滝ダム直下の河床が低くなりました。その為下流の水位も1~2m程下がりました。水量の少ない時はダム下流の床固めに水位差が出来て鮭が遡上できない可能性が考えられます。また、鮭も遡上して来た時、右岸にある魚道を見つけるまで時間のかかるおそれがあることが考えられます。下の写真を見比べてください。右下の赤丸内の導流壁下部の穴(通水口)がよく見えることで水位差がお分かりいただけると思います。
2010年11月21日の西大滝ダム下流 2013年10月4日の西大滝ダム下流
2010年11月9日の西大滝ダム下流 2013年10月4日の西大滝ダム下流
今後はこれらを新潟県中魚沼漁業協同組合、長野県高水漁業協同組合、東京電力信濃川発電所と一緒になって検証し、問題解決の糸口を見つけ、多くの鮭が千曲川上流部に遡上できるように、活動を続けてまいります。
また、長野県上田市での発眼卵の埋設や来年3月の稚魚放流を沿川市町村の皆様と一緒に行いますので、ご支援をよろしくお願い致します。
※この活動は三井物産環境基金の助成を受けて行っています。