天童の水便り―16

山形県・天童市で農業を営む会員の須藤敏彦さんから「天童の水便り」が届きました。

 

斉藤 茂吉 「白き山」より

前号に引き続き、斉藤 茂吉(1882-1953)の「白き山」の続きです。

79 最上川にごりみなぎるいきほひを まぼろしに見て冬ごもりけり
80 つつましきものにもあるかけむごと 最上川に降る三月のあめ
81 最上川ながれの岸に黒どりの 鴉は啼きてはや春は来る

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国道347号 北西側 冬の地吹雪対策用の柵 2016.3.15撮影

「東雲」より

82 最上川雪を浮ぶるきびしさを来りて見たりきさらぎなれば
83 なげかひを今夜はやめむ最上川の 石といえども常ならなくに

「昼と夜」より
84 最上川のなぎさに近くゐたりけり われのそがひはうちつづく雪
85 瑠璃いろに光る昆虫いづるまで 最上川べの春たけむとす
86 われに近く常にうごめきてゐたりけり 川にひたれる銀のやなぎの花
87 わがまへにさかまきてをる最上川 そのあかきみづの音ぞきこゆる
「あかきみづ」は雪解け水であろう。あの広い川幅いっぱいに
ものすごい音をたてて流れゆく。橋脚を巻いてうずまくさまは
壮観であった。(「白き山 研究」 斉藤茂吉記念館編より)

88 うちわたしいまだも雪の消えのこる 最上川べに燕ひるがへる

「辺土独吟 大石田」より
89 最上川の鯉もねむらむ冬さむき 真夜中にしてものおもひけり
90 はるかなる源をもつ最上川 波にたかぶりていま海に入る
91 最上川海に入らむと風をいたみ うなじほの浪とまじはる音す
92 水面はわが顔と触るるばかりにて 最上川べの雪解けけむとす

「四月」より
93 残雪も低くなりたる最上川 上空のくもりのなかに雲雀が啼きて

「雪解の水」より

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大石田上流 長島 2016.3.15撮影

94 両岸をついに浸してあらそばず 最上川のみずひたぶる流る
95 わが心今かおちゐむ最上川 にぶき光のただよふ見れば
96 最上川大みづとなりみなぎるに デルタのあたまが少し見え居り
97 濁水に浮び来りて速し速し この大き河にしたがへるもの
98 最上川五月のみづをよろしみと 岸べの道に足をとどめつ
「洪水」より
99 平明に膨張をする最上がは 対岸の雪すでにひたしぬ
100 最上川の洪水うへを浮動して 来るものあり海まで行くか
101 下河原に水はつきたり浸りたる 残雪のうへに渦の音きこゆ
102 最上川ふくるるを見つ窄きて来しゴムの長靴岸にひたして
103 最上川の洪水みれば膨れつつ 行方も知らぬそのおどろかさ
104 大きなる流動をわがまへにして ここ去りゆかむことをおもへり
105 水ひきあとの砂地に生けるもの 居りとも見えず物ぬくみけり
106 南よりうねりて来る最上川 川の彼岸にうぐひす啼くも
「彼岸」のルビは ヒガンですが、前述のとおり
かのきし (対岸)とかけている
「樹薩山房」より(5月5日哀草果宅)
107 哀草果も五十五歳になりたりと 朝川のべにわれひとりごつ
本沢村 にて(5月6日)
108 最上川べに帰りてゆかば しばしばも君をたづねむ吾ならなくに
「胡桃の花」より
109 この川の岸をうづむる蓬生は 高々となりて春ゆかむとす
110 河鹿鳴くおぼろげ川の水上に わが居るときに日はかたぶきぬ

最上川右支川 最上小国川  20154.27撮影

最上川右支川 最上小国川  20154.27撮影

「猿羽根峠」より
111 おのづから北へむかはむ最上川 大きくうねるわが眼下に
112 舟形にくだり来れば小国川 ながれの岸にねむりもよほす
113 小国川宮城ざかひゆ流れきて 川瀬川瀬に河鹿鳴かしむ
「横手」より(6月14日)
114 城山をくだり来りて川の瀬に あまたの河鹿聞けば楽しも
「晩夏」より
115 最上川あかくにごれるきのふけふ 岸べの道をわが歩みをり
「次年子」より
116 分水嶺われ等過ぎつつおもひけり 東のながれと西のながれと

話は飛びますが茂吉以外の俳句をみてみます。

芭蕉(1644-1694)の最上川の俳句をみてみると
五月雨を あつめて早し最上川
風の香も 南に近し 最上川
暑き日を 海にいれたり 最上川
(茂吉短歌 表現考 高橋宗伸著より)
正岡子規(1867-1902)では
旅人や 秋立つ舟の 最上川
瀬の音や 霧に明け行く 最上川
ずんずんと 夏を流すや 最上川
(茂吉短歌 表現考 高橋宗伸著より)

いずれの句も、最上川を結句としています。
その点で茂吉の歌は、最上川を自在に扱い表現しています。
俳句と短歌の違いでしょうか。

 

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