韓国・蔚山(ウルサン)市の水辺事情に学ぶ  訪問レポート

5月23~26日の4日間、新潟市の友好交流事業の一環として、交流協定都市である韓国・蔚山(ウルサン)市を訪問し、産業都市であるとともに環境都市として発展する蔚山市の水辺事情を学んでまいりました。

蔚山市は釜山(プサン)の北北東50kmに位置する日本海に面した産業都市で、現代自動車など韓国を代表する企業が集積し、50年前には8万人程の人口の町でしたが現在では117万人の大都市へと発展しています。

訪問団の構成は、新潟市職員2名(諸橋さん、齋藤さん)、新潟水辺の会から10名(大熊夫妻、梶、大崎、香田、山岸、加藤、横山、長谷川、佐藤)、計12名でした。

 

<5/23・1日目>

仁川(インチョン)空港に降りてからバスで鉄道の駅に向かい、韓国の超特急KTXに乗って約2時間、16:21に蔚山(ウルサン)駅に到着しました。

蔚山駅では、昨年7月に新潟市に来訪した太和江(テファガン)保全会幹部の皆さんのなつかしい顔が、私たちを出迎えてくれました。

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一行は蔚山(ウルサン)市役所に入って、パク・メンウ市長と市の幹部職員による歓迎行事に臨み、汚染河川の代名詞であった太和江(テファガン)の水質を10年かけて改善し、最悪の公害都市を最高の環境都市に変えてきた経過について、ビデオ映像と市長の誠実な語り口で、説明をいただきました。

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韓国の排水基準は川・海を汚さないという目的がはっきりしています。統一基準はBODで10mg/Lです。(日本では20mg/Lです。)大きな河川の基準はさらに厳しく設定されていて、蔚山(ウルサン)市を流れる太和江(テファガン)の基準は3mg/Lですが、この都市の自主的な努力で、現実の排水はなんと1~2mg/Lという水準が維持されているそうです。ここまで浄化して川に流す努力を続けたなら、太和江(テファガン)が泳げる川になったのは当然です。(本年4月実施の太和江の水質調査結果は、BOD2.3mg/L、SS6.8mg/L、PH8.0だそうですが、日本の環境基準にあてはめるとAからBランクに相当し、水道水としての利用可となります。)

市長は、経済発展による所得の向上を環境改善に向けていると語っていました。市長はさりげなく語られましたが、この言葉はとても重要だと感じました。工業生産の水準と一体のものとして、環境水準も国際的水準に引き上げるのは当然のこととする理念と熱意が伝わってきます。市(行政)と市民と企業は三者一体となって協力し、厳しい排水基準を守っています。(違反者への罰則は重いのです。)市長の言葉では、お互いの共存のために話し合いと協力が進められてきたということですが、市長の決断力の背景には、市民の強い支持がありました。

この国の、この都市の、若々しい発展過程と真っすぐな目的意識、曖昧を排する緊張感が、産業都市と環境都市の両立を実現させているようです。環境を守るルールの徹底には、重い罰則も辞さないという社会風土を垣間見て、儒教立国ゆえにお上の威光が効くのか、政治生命を賭して取り組む首長の覚悟によるものなのか、戦時下に置かれてきたこの国の引き締まった空気によるものなのか、様々な思いがめぐりました。

理想や目的が風化し、曖昧列島と化した現在の日本では失われてしまった、引き締まった空気と気概(志)と言えるものが、韓国・蔚山(ウルサン)市にあったと言えますが、それは重い課題として私の心に残りました。

新潟市において通船川などの水質改善が、ある時点から一向に進まぬ現状と、行政・企業・市民の姿勢を顧みると、行政は何に配慮しているのか、企業は社会的教訓から何を学んだのか、市民は地域の未来を考える主体になっているのか・・・という点において、私たちの国と地域の様子は、気概や志を失った無気力な老人のようだと思い知らされました。(県が定めている通船川下流の環境基準はDランクで、BODは8mg/L以下、SSは100mg/L以下とされていますが、水道水としての利用はもちろん不可ですし、釣った魚は食べる気になれず、泳ぐ気にもなれませんね。)

私は日本以上のスピードで工業発展と都市集中を進めている韓国社会の諸事情を、すべて手放しで称賛するものではありませんが、上記の点については、今回の訪問で、それでいいのか!と「喝(かつ)」を入れていただいた思いがいたしました。

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蔚山(ウルサン)市の歓迎行事の最後には、訪問団一人ひとりの感想に市長がコメントされるという場面があり、表敬訪問の常識を超えたパク・メンウ市長の誠実な対応に、訪問団一同が感動いたしました。

 

<5/24・2日目>

太和江(テファガン)保全会の案内で、太和江展望台と太和江大公園~クルファ下水処理場~現代自動車~ソンアムごみ焼却場を見学させていただきました。

蔚山(ウルサン)市の市街を西から東へ貫いて流れる太和江(テファガン)は大河ですが、千メートルを超える山並みがせまっていて長さは47.5kmです。蔚山(ウルサン)市の水がめとして複数のダムと湖があり、これらの調節によって太和江(テファガン)の水位は一定に保たれています。

蔚山(ウルサン)市民が愛する十里竹林と太和江大公園、そして太和江展望台は、蔚山市街地の西端、太和江(テファガン)の河口から遡って7kmの地点にあります。

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太和江(テファガン)は「水半分、魚半分」(中国的で大げさな表現ですが)と言われていて、魚が泳ぐ姿がよく見えました。川にも周辺の散歩道にもゴミが見えませんでしたが、区域別に管理する公団があって、住民やボランティアが清掃しているそうです。

太和江大公園は十里竹林を保全・復元し、川と竹林を連携して自然生態系を観察・体験するなど市民に自然環境の大切さを感じてもらう場となっており、竹林と市街との間の8万坪の空間はポピーや菊など四季おりおりの花畑が広がる市民の憩いの場となっています。

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今では美しく管理されている十里竹林(シムニデバッ)は、国の防災対策で伐採される計画でしたが、市民から保存運動が起きて(太和江保全会が中心となって運動)7万人の署名を集めて闘い、蔚山(ウルサン)市当局も市民の側に立って尽力することによって、国の施策を断念させることができたという話でした。竹林と市街の間の運河公園とお花畑についても、市民の1坪買い取り運動をきっかけにして、市が居住地域の買収と運河や藪地の整備を進めて、広大な花の公園が整備されたということです。訪問時には、「春の花祭り」が開催されていました。

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若い都市蔚山(ウルサン)市の、環境問題に敏感で行動的な市民の姿と、その支持を受けて積極的に環境都市を創ってきた市長の姿が見えてきました。

クルファ下水処理場の見学では、管理目標値BOD2.8mg/Lに対して実際に放流されている水質は1.5mg/Lであると説明を受けて驚きました。

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現代自動車の工場排水処理場の見学においては、特に塗装処理に使った排水の処理が重要との説明を受けました。物理的処理、化学的処理、生物学的処理を経て会社から出る排水は20mg/L(国の基準は90mg/L)ですが、これを市の施設で再処理して上記の水準(1.5mg/L)まで下げてから川に放流されるそうです。現代自動車は市に対する年間処理料金として10億ウォン(1億円)を支払っているそうです。

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ソンアムごみ焼却場の見学でも、新潟とは異なる蔚山市のシステムに学ばせていただきました。ごみの分別は、リサイクルごみ、一般生活ごみ(不燃物含)、生ごみ、の3種類です。一般生活ごみは不燃物を除いてから高熱炉で焼却しますが、生ごみは微生物による分解処理を施してから残存物は焼却して灰としセメントに加工するそうです。ごみの処理過程で発生するガスについては、熱利用するために近くの化学工場へパイプで送られていました。

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ごみの袋は地区ごとに色分けされており、ルール違反があれば地区の責任として罰金が科せられるそうです。このへんも社会的ルールを守ることへの徹底ぶりが感じられて、とかく責任不在になりがちな曖昧な風土に住む私には、好ましく思えたくらいです。

 

<5/25~26.3~4日目>

3日目は太和江(テファガン)保全会の案内で、蔚山(ウルサン)市内観光を楽しみました。コースは、瑟島(スルド)灯台~大王岩(テワンアム)~大谷(テゴク)博物館~大谷(テゴク)ダム~盤亀台(パングデ)岩刻画です。私たちはおかげさまで、蔚山(ウルサン)の自然美と歴史の深さを、たっぷり味わうことができました。

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また、4日目の午前中には空港まで送っていただく途中、加藤清正が城を築いた跡という鶴城(ハクソン)公園を見学させていただきました。

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蔚山(ウルサン)から空路で京城(ソウル)に戻ってから、仁川(インチョン)空港に向かうまでの時間を利用して、都市の中に造られた奇跡の川と言われた清渓川(チョンゲチョン)の現在の様子を散策して参りました。大都市の中の川に魚が泳ぎ鳥が遊び、都市住民のオアシスになっているようです。大熊代表は川の水をすくって口にふくんでいましたが、以前よりきれいになっていると語っていました。この環境を造ることに政治生命をかけて取り組んだ首都の首長が、大統領にまで登りつめることができる国が韓国なのです。                                                                       (報告者:佐藤哲郎)

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5 comments

  • 기사 잘 보았습니다.수변회 회원님들 열정과 환경사랑
    존경합니다

  • 上のコメントは韓国蔚山テファガン保全会のキム事務局長からのものです。
    翻訳を載せておきます。
    ”記事を拝見しました。水辺の会の皆さんの情熱と環境への愛情は尊敬にあたいすると感じています。”

  • 佐藤 哲郎

    キム事務局長さんへ
    우리 수변회홈페이지에 댓글을 달아주셔서 감사합니다.
    울산에서는 많이 신세를 쳤습니다. 덕분에 우리들에게는
    이번 방문이 배울 점이 많아 알찬 여행이 된 것 같습니다. 태화강보전회 여러분의
    무궁한 발전과 가일층의 활약을 믿고 있습니다.
    다시 만날 수 있기를 바랍니다. 감사합니다.
    니가타 수변회 사무국장 사토 테쓰로 올림.
    ホームページへのコメントをありがとうございます。蔚山市ではたいへんお世話になりました。おかげさまで私たちにとって、とても良い学びの旅になりました。テファガン保全会の皆さんのますますのご活躍と成功を確信しています。またお会いできる機会があれば嬉しいです。

  • ホームページにで共鳴できて、とてもお勧めします。
    国は違っても、環境を考える心はな心のようです。
    短い期間だったが、情が聞いたようです。
    たくさん見たいと思うこともあります。
    常に健康によくチェンギシゴよ。
    事務局長ギムスクジャ홈페이지로 통해 교감 할수있어 너무 좋습니다.
    나라는 달라도 환경을 생각하는 마음은 한 마음인 것 같습니다.
    짧은 기간이였지만 정이 들었나봐요.
    많이 보고싶기도 합니다.
    항상 건강 잘 챙기시고요.
    사무처장 김숙자

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