鮭発眼卵からの育成日記-1(長野県上田市の浦野川)

かつて信濃川の河口から約300km上流の長野県松本や上田まで、秋になると数千尾から数万尾の鮭が遡上する自然豊かな河川でした。しかし、昭和10年代に始まった国策の電源開発事業によってダムや発電所が作られると、川の水量が極端に少なくなり、魚類の遡上が困難となると共に多くの水生生物がすみ場を失い、川の生態系は極度に劣化した状態となっていきした。

新潟水辺の会では、信濃川・千曲川の河川環境の再生を目指し、これまで6年間河川環境改善の取っ掛かりとして、鮭の稚魚の人工孵化による放流を行ってきました。

鮭稚魚の市民環境放流

雪の降る中バケツリレーをして、鮭の稚魚を西大滝ダム下流の千曲川に放流

 

信濃川・千曲川にかつてのように鮭を多く帰ってきてもらうため(回帰率の向上)には、その地に遡上した鮭を採捕、採卵、孵化、飼育、放流を継続的に行う事が必要です。だがこの活動は、漁業としての鮭漁の復活を目標とするものではなく、信濃川の水量が回復し、長野で産卵・孵化した鮭の稚魚が安全に日本海まで降り、再び成魚が河口新潟から長野まで遡上できる環境を整え、信濃川の生物循環経路を復活させ、本来の川に復元させようとするものです。

そして鮭の遡上は、信濃川・千曲川を生きた川とし、川の生態系や川とともにあった人の暮らしと文化を再生してゆく象徴としていますが、鮭の遡上する姿は人々に驚きとともにその力強い生命力に尊敬の念を抱かせるものです。

鮭の群れで遡上(能代川)

南田中にある能代川では、季節になると遡上した鮭の産卵風景が見学できる

 

これまで信濃川中流域の魚野川の合流点から、県境を越えて西大滝ダムの約63km区間が極端に流量が少ない減水区間でしたが、JR東日本の宮中取水ダム不正取水問題及び西大滝ダムの水利権更新によりこれまでに比べ水量が豊かとなり、鮭などが遡上し易くなりました。結果、宮中取水ダム魚道へは近年多くの鮭が遡上してくるようになりました。

その様な中の2010年10月20日、信濃川河口より253kmの上田市千曲川の中山梁場に65年ぶりにメスの鮭が発見され、2年後またも同じ梁場にオス鮭が発見されました。

上田の中山梁場で発見された鮭

2010年10月20日発見のメス鮭                  2012年11月13日発見のオス鮭

 

「鮭の自然産卵に向けて」 

現在、新潟県佐渡島では朱鷺の野生復帰に向けた放鳥の取組が行われています。これは本来、野生生物は自然環境下で存続することが望ましいと考えられているからです。日本国内では野生の朱鷺は絶滅してしまいましたが、朱鷺の存続が可能となる自然条件等を整えたうえで、過去に生態系を構成していた朱鷺を自然に放鳥する試みを行い、今年6羽のヒナが誕生し、自然復帰に大きく羽ばたいている現実を身近に感じ大いに勇気付けられています。

当会も人工孵化による鮭の稚魚放流だけに頼っていてはいけないと反省し、将来は河川での自然産卵による鮭の遡上を目指し、技術面では日本海区水産研究所の技術指導の下で鮭の発眼卵の自然産卵着床(より自然状態に近い形での孵化および降下)を行うことを計画しました。

 

千曲川の支川で湧水があり、かつて自然産卵したであろう河川を探しましたが見つかりませんでした。そんな時上田の千曲川で鮭が発見され、その近くの「上田道と川の駅・おとぎの里」の世話人・石井さんと縁を得ました。石井さんは砂利採取業をやるかたわら梁場を経営し、ドラムをたたくミュージシャンの方です。

 

「おとぎの里は、上田道と川の駅の飲食・物販の運営を、地域の皆さんが会員となり「豊かな地域づくり」をめざし活動し、収益事業と公益事業の一体的推進を進めている団体です。
会員さんには、農産物や手芸・工芸品などを販売物を出品する皆さんと、音楽やダンス、太鼓の演奏などの表現をしたり、健康づくりや安心・安全な地域づくりをすすめたり、環境のことなどを勉強したり、また、草刈りや花植えなど美化活動をしたり、食の研究と提供、イベントや行事の企画をしたり上田道と川の駅のプロモーションを担当する会員さんがいます。」

 

12月10日、上田道と川の駅裏の浦野川に千曲川河川事務所の許可を得て、鮭の発眼卵埋設のための河川改修を行いました。石井さんが川に近い場所に幅5m×長さ約20m、深さ約70センチのワンドを掘り、下に30センチ程の砂利層を重機で作っていただきました。

発眼卵埋設の為の改修工事

重機で大きな石も簡単に移動し ダンプ2台分の砂利を川に敷き詰めた

 

12月16日、能代川サケ・マス増殖組合より発眼卵11万粒を上田へ運び、新潟水辺の会より大熊代表、山岸世話人、加藤の3名、日本海区水産研究所の飯田さん、長野大学の高橋教授以下環境学科の学生さん18名、そして石井さんにお手伝いしていただき、浦野川に1万粒の鮭の発眼卵を埋設しました。

二重底のバイバートボックス

虫かごのような二重構造になって、組み立て式のバイバートボックス

バイバートボックスに小石と発眼卵を入れる

発眼卵の埋設には日本海区水産研究所よりお借りした虫かごみたいな二重底の形状のバイバートボックスを使用し、1個のバイバートボックスの下に小石を入れ、上には約200粒の発眼卵を入れて川の砂利層の中に50個埋設しました。発眼卵はバイバートボックスの中で孵化し、仔魚になると箱の下の方へ移動し、更に大きくなり稚魚になると自然に川を下って海に行くものです。

発眼卵を入れたバイバートボックスを川に埋設

100円ショップより仕入れの籠に2個づつ入れて、砂利層に太陽の光が直接当たらないよう埋設

 

12月10日に来たときは気温も低く川の中での作業は冷たくだいぶ時間もかかるだろうと思って板だ、助っ人の人数が多かった事と、天気が良く水温も結構高かった事で作業もスムーズに行き、太陽が山に隠れるまでに埋設作業は終えることが出来ました。

鮭の発眼卵埋設作業者の集合写真と竪看板

 

お知らせの看板と、作業を終えて参加者全員で記念撮影

埋設した発眼卵が孵化し始めるのは1月中旬になりそうです。そして大きくなって稚魚になり、川を下るのを楽しみにしています。

これからは、長野県内の3小学校(上田南小学校、木島平小学校、野沢温泉小学校)に育成をお願いした発眼卵の状況と、浦山の我が家の車庫で飼育中の発眼卵の状況報告を今後行いますのでお楽しみに。

 

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください