堰と水門の違い?

川を横断する構造物として、ダムのほかに、堰や水門がある。堰と水門は、構造的にはほとんど差がないのであるが、その機能に大きな違いがある。しかし意外と、このことが河川工学の教科書には書かれていない。

堰は、普段はゲートを閉めて、流水を塞き上げているが、洪水時にはゲートを開放して、洪水をできるだけスムーズに流下させるものである。

水門は、普段はゲートを開放していることが多いけれど、洪水時にはゲートを閉めて堤防の代わりになりうるものである。

要は、われわれの流水に対する要求が、普段のときと、洪水のときで異なるからであり、その要求に応じて流水を自由にコントロールするために、堰や水門が必要となるのである。

この堰と水門は、単独で造られることが多いけれど、川の分派点にも必要な構造物である。下記の図は、越後平野の川の分派点にある構造物であるが、水門というのは、いざとなったらゲートを閉めて流水を遮断し、 堰の方を開放してそちらに洪水を流すことになる。

ただ、ここで困ったことがある。大河津分水の洗堰は、『堰』という名称がついているが、実は水門であり、洪水時には閉めて堤防の代わりとなり、大河津分水路の方に信濃川の洪水全量を流す役目がある。したがって、ここの『洗堰』は固有名詞と考えてほしい。同じようなことが琵琶湖からの流出をコントロールする『瀬田川洗堰』があり、これもいざとなったら堤防の役割を果たすことがあるので水門であるが、これも固有名詞として理解してほしい。

下の写真は、2011年7月30日に、信濃川と中ノ口川の分派点を上流から撮影したものであるが、右の蒲原大堰は開放されており、左の中ノ口川水門は見かけは閉じられている。ただし、洪水時には、中ノ口川も洪水を分担しなければならないので、ゲートの下のほうが開いていることを付言しておきたい。

なお、こうした重要な分派点で片方しか構造物がない事例がある。利根川の江戸川分派点である。江戸川の方には、関宿水閘門があるが、利根川本川の方には何も構造物がない。この経緯を書くと長くなるので別の機会に譲るが、今の問題点だけあげれば、利根川洪水が計画通りに江戸川に分派できずに利根川本川に流れやすく、河床低下が進み、さらに利根川本川に洪水が流れやすくなっているということである。

信濃川と中ノ口川の分派点・上流から望む(2011・7・30大熊撮影)

4 comments

  • H.T.

    「人気ページ」に「堰と水門の違い?」がありますが、その中の堰のことについて教えて下さい。

    堰は、「河川の流水を制御するために、河川を横断して設置されるダム以外の施設で堤防の機能を有しないも」のと私は理解していますが、「堰と水門の違い?」では、ゲートを有するものを堰と表現しています。では、ゲートの無い堰(私は、固定堰と言っていましたが)は、堰ではないのでしょうか。堰でなければ何と言う施設なのか教えてください。

    • 大熊 孝

      H.T.様

      水辺の会のホームページをご覧いただき、さらにご意見をいただき、ありがとうございます。

      堰の定義、あなたのおっしゃるように固定堰も含め定義すべきだと思います。
      ただ、水辺の会のホームページでは入門的な観点で書いており、ダムとの違いなどまで触れませんでした。

      あなたはダムの定義をご存知で、河川に関するプロでないかと推察します。
      あなたの言うように「ダム以外」というフレーズを入れるとなると、ダムの定義まで触れなければなりません。
      一般には固定堰も、高さが15m以下のものでも、ダムと認識されています。
      英語の「dam」も同じような認識だと思います。
      河川法でいう「基礎岩盤から堤頂までの高さが15m以上のもの」というダムの定義は一般には知られていません。
      これもホームページに書くべきだったと思いますが、そこまで配慮できませんでした。

      また、固定堰は、洪水時に堰上げ現象(※1)があり、渇水時にはそれこそ堤防のようになってしまいますので、流水をコントロールしているとはいいがたくなり、議論が複雑になります。
      さらに、ホームページに載せた図には沢海の床止め(※2)がありますが、「床止めとは?」まで入れると、ホームページではさらに煩雑になります。
      「洗堰」について触れるのが精一杯でした。

      そのようなことで、あくまで入門編ということでいろいろ議論を省きました。
      その点、ご賢察ください。
      <事務局注>
      ※1出典「世界大百科事典 第2版(せき上げ背水の用語解説)」:河川にせきやダムを設けると,水がせき上げられ,水位の上昇が上流に及ぶ。これをせき上げ背水といいます。
      ※2出典「水辺用語集」:床止め(とこどめ)・床固め(とこがため). 河床の洗掘を防いで河川の勾配(上流から 下流に向かっての川底の勾配)を安定させるために、河川を横断して設けられる施設 です。 床固めということもありますが、機能は同じです。

      • H.T.

        大熊先生

        ありがとうございました。先生のおっしゃりたいことはわかりしました。

        しかし、やっぱり堰には、固定堰と可動堰があり、「固定堰は洪水時に堰の上流部に堰上げ作用が発生するため、堰上げの影響範囲では堤防高を嵩上げすることが必要である」とことわってから可動堰の説明に入るべきではないかと思います。

        「人気ページ」の「堰と水門の違い?」の内容(大河津分水の洗堰の説明より前の部分)そのままなら、「堰と水門のゲートの目的の違い」の説明なのではないかと思います。

        • 大熊 孝

          H.T.様

          再度ご意見、ありがとうございます。
          このコメントの最初に申し上げたように、固定堰を含めて堰を定義しなかったことが問題でしたね。
          上の図にもあるように、大河津分水の分水路側の堰は固定堰と可動堰がつながる形で造られています。現在では、川幅いっぱいに可動堰をつくるのが普通になっていますが、昔は、工費節約で、固定堰と可動堰が一つの堰としてつくられることが多くありましたただ、この固定堰部分が水位の低い時に堤防のようになり、流水を迂回させ、護岸を破壊し、深刻な水害を発生させた事例もあります。1981(昭和49)年の多摩川水害です。いずれ、このようなことも含め、堰について議論したいと思います。もし、お時間があれば、拙書「技術にも自治がある」(農文協2004年、205頁~235頁)で、多摩川水害には触れていませんが、吉野川の第十堰を中心に堰について議論していますので、ご覧いただければ幸いです。

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