さけます研究開発推進会議及び石狩川での鮭の自然産卵調査報告

「平成25年度さけます関係研究開発等推進会議」が8月5日(月)札幌で開催される案内が届き、最先端の鮭の研究について聞ける絶好の機会であり、新潟より参加しましたので報告します。

 

かつて、信濃川上流の長野県松本市の犀川や上田市の千曲川に数万尾の鮭が遡上していましたが、戦前の国策での水力発電用ダム建設による河川環境の悪化で、千曲川への鮭の遡上が途絶えた歴史があります。

また、北海道の石狩川でもかつて中流部の上川地方に数十万尾の鮭の遡上がありましたが、高度経済成長期における河川の水質汚濁、農業用取水堰の建設により鮭の遡上が途絶えた歴史があったとのことです。

だが信濃川同様に、石狩川でも近年市民団体が鮭稚魚の放流を行い、河川管理者が魚道の新設、改善を行って来たことで鮭が戻り、自然産卵の箇所も1000箇所を越えているとの新聞報道がありました。

 

一度鮭の遡上が途絶えた石狩川でどうして鮭が遡上し始め、自然産卵床が1000箇所も出来たのかを探りたく、さけます研究開発推進会議に併せて石狩川の鮭の自然産卵調査を、山岸副代表と加藤が行ってきましたので報告します。

 

日時:平成25年8月3日(土)~8月7日(水)

北海道河川と石狩川マップ

北海道の主要河川と石狩川の流域図

石狩川は、流路延長268km、流域面積14,300 ㎢の北海道最大の一級河川である。北海道中央部の標高1、962mの石狩岳に源を発し、層雲峡から川上盆地に入り忠別川や牛朱別川等の支川と合流し、神居古潭の渓谷を流下して石狩川平野に抜ける。その後、雨竜川、空知川と合流して流量を増して流下し、千歳川や豊平川と合流して日本海に流入する。

石狩川の河道を上空から

石狩川の川筋を上空から見ると(Google Earthにて作成)

 

北海道に行くに当り、これまで技術指導を仰いでいた日本海区水産研究所の飯田真也氏を通じて石狩川の鮭の自然産卵場所の確認をお願いした処、2年前まで日本海区水産研究所に居られた現・北海道区水産研究所 さけます資源部の戸叶 恒主任技術員氏と同じく伊藤洋満氏が日曜日にも関わらず、石狩川河口より鮭の自然産卵場所の旭川まで案内して頂ける事になりました。

石狩川河口で説明してくださった伊藤さん

石狩川河口にて、鮭の自然産卵について話を伊藤さん、戸叶さんよりお聞きした

 

石狩川は、信濃川同様にかつて北海道でも有数の鮭の遡上河川で、旭川市がある上川盆地を産卵場とし、明治以前には数十万規模の鮭が河口より150 km付近まで遡上していた。しかし、高度経済成長期における河川の水質汚濁、さらに1964 年に河口から約120km 離れた石狩川中流へ農業用取水堰の旧花園頭首工が建設されたことで、石狩川上流へ遡上する鮭は、一度は完全に途絶えた。

花園頭首工の場所置と写真

旧花園頭首工の場所の地図と8月訪れた時の状況

しかし、1970年代以降の水質改善、さらに2000年に旧花園頭首工に魚道が設置されました。また、1984年から旭川周辺の市民団体が20年近く鮭稚魚の放流を行い、2003年以降には鮭親魚の遡上が確認されました。2009年から北海道区水産研究所が忠別川で毎年50万尾の稚魚を放流しました。同年、石狩川の支流・忠別川、2010 年石狩川本川で鮭の自然産卵が確認されています。さらに2010年魚道が増設されたことから、約1,000ヶ所の産卵跡と数百尾の鮭の遡上が確認されていることを、新聞報道により私たちも知りました。

 

旧花園頭首工上空よりと現地-1

上空から見た旧花園頭首工と説明する伊藤さん

旧花園頭首工に新設された魚道

石狩川の左岸に新設された魚道とその看板

 

◆石狩川水系での鮭稚魚放流及び自然産卵回復場所の確認

(河口より約150km)

次に、石井さんと戸叶さんの案内で旭川に入りました。

北海道区水産研究所では、石狩川上流域における鮭自然産卵資源の回復を目的とし、2009 ~ 2011年の3年間石狩川支流の愛別川と忠別川に同じ石狩川水系の千歳川産の鮭稚魚に、耳石温度標識と一部脂鰭切除標識も実施し、各河川に25万尾ずつを放流したとの事です。

石狩川水系におけるサケ稚魚放流試験

 

石狩川中流域の各支川及び耳石温度標識と一部脂鰭切除標識の鮭の稚魚

約1000ヶ所の自然産卵が見つかった愛別川

約1000ヶ所の自然産卵が見つかった愛別川の河原

次に忠別川にも向かいました。

忠別川の自然産卵場所

 

ここでは三面コンクリート(砂利厚20~30cm)のポン川で自然産卵が確認されています。三面コンクリートの割れ目から忠別川の伏流水が湧き出しているとの事でした。

 

石狩川水系における鮭稚魚放流試験産卵床結果

 

2011年秋の調査では、合計300カ所で産卵床が確認され、回収したホッチャレ(川に戻り産卵を終えた鮭)93尾の内81尾(87%)が標識放流魚であったとの事。また2012年秋の調査では、合計1293カ所で産卵床が確認され、回収したホッチャレ(川に戻り産卵を終えた鮭)313尾の内303尾(97%)が標識放流魚の成果であった事をお聞きでました。

 

放流前2010年の産卵床確認調査では、石狩川本流で5カ所、愛別川では0カ所、忠別川で10カ所のみであったことからその効果があったとの事でした。

北海道と長野では違いはありますが、1gに満たない稚魚が河川で自然産卵し降下して親魚となって河口より150km上流の石狩川に戻ってくる事は、現在当会が進めている鮭稚魚の人口ふ化放流の依存を徐々に自然産卵に委ねる事への大きな力となりうる事を実感した訪問でした。

 

その他の見学箇所

◆石狩川頭首工

石狩川頭首工は、石狩川河口から約55km上流に位置する、堤長155m、最大取水量が50m3/sの頭首工で、江別市、当別町、月形町、新篠津村に拡がる7,033haの水田用水を取水している。石狩川頭首工は篠津泥炭地に農業用水を安定的に供給することを目的に昭和38年度に完成し両岸に魚道を設けている。

石狩川頭首工と魚道地図

 

◆ 平成25年度「さけます関係研究開発等推進会議」

水産総合研究センター北海道区水産研究所主催の平成25年度「さけます関係研究開発等推進会議」が札幌市内のホテルを会場に、道内や各県の漁協、行政、NPOなど220名が参加し午後2時に開催しました。

始めにわが国への鮭の来遊数が、平成20年以降3年連続で5,000万尾を割り込んでいること。特に太平洋沿岸の来遊数の減少が顕著に見られたほか、全国的に回遊した親魚の小型化も確認されていると報告が福田北海道区水産権研究所長よりあり、予測に関する研究開発の成果報告と今後の対応に関する情報提供が午後5時15分までありました。

平成25年度さけます関係研究開発等推進会議

さけます関係研究開発等推進会議の様子

私たち新潟水辺の会が期待していた河川への鮭の遡上や、自然産卵に関する研究発表は残念ながらなかったが隣の席に、前日午後から見学に訪れた愛別川、忠別川で自然産卵の活動を行っている「大雪と石狩の自然を守る会」の寺島一男代表及び北島惇二氏にお会いでき、石狩川中流域の鮭の産卵状況をお聞きできました。

成果普及部会の報告では、今年も鮭の来遊数は5,000万尾を割る中で、小型化が今後も予想されるものでした。その原因の一つに海水温と潮流の変化が影響しているようだ。今後も科学的・技術的要素を加えた調査が行われるとのこと。まだ、鮭には未知の事象が多くあることを知ることができました。

平成25年度さけます関係研究開発等推進会議-1

 

下記の部会報告が行われた

(1)       鮭資源の現状と予測に関する研究開発等の成果情報

①     北大西洋における鮭の資源状況

②     岩手県における鮭の資源状況

③     北海道における鮭の資源状況

④     平成25年度の鮭来遊見込み

(2)       鮭資源の変動要因と今後の対応に関する情報提供

①     想定される鮭資源の変動要因

②     北海道における鮭ふ化放流概況の変遷

③     「太平洋鮭資源回復調査事業」について

以上

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