2日目-2 欅平駅~黒部川第四地下発電所   事務局 加藤 功

宇奈月からのトロッコ列車は終点の欅平に停車後、すぐに二つのトンネルの右の方へ200m程進んだ処で止まった。すぐに動き出したが、今度はバックで100m程進み停車した。これまで半そでだった私たちもヤッケをはおり、頭にヘルメットをかぶり、プラットホームのない平らな線路があるだけの欅平下部駅に降り立った。ここから本格的な未開放黒部ルートが始まるのだ。

 

この区間は、おもに4つの輸送機関で構成されている。

・竪坑エレベーター(人荷用 欅平駅 標高599m~欅平上部 標高800m 高低差 200m)
・黒部専用鉄道(欅平上部 標高800m~黒部川第四地下発電所 標高869m 延長 6.5km)
・インクライン(地下式ケーブルカー 黒四ダム地下発電所 標高869m~インクライン上部 標高1325m 斜長 815m)
・黒部ルート(インクライン上部 標高1325m~黒部ダム 標高1454m 延長 10.2km)

 

欅平駅と欅平上部の間は定員35名乗りの竪坑エレベーター(縦2m×横4m×高さ3.5m)で結ばれ、標高差200m(50階立てのビルに相当)を一気に昇るのだ。このエレベーター内部の足元にはレールが引かれ、機関車や列車を上部に上げれるように設計されていた。

 黄色のヘルメットは関西電力の方で、白のヘルメットは見学者

2分ほどで欅平上部駅に到着し、狭い通路のトンネルを抜けて展望台に行った。そこで案内の元野主任さんより、「一般の登山者は欅平駅をおり、展望台から見える蜆坂と呼ばれる九十九折の坂を800m垂直に登り、危険な水平歩道を行かなくてはならない」そうだ。コンクリートの窓から見える北アルプスの山はガスってあまり良く見えないが、登山者の大変さだけは想像された。

 ここは積雪も多くコンクリートの厚さもすごい。晴れていれば残雪の残る北アルプスが見えていたかもしれない

もう一度狭いトンネルを元に戻る。駅の案内板によると、平日は定時4本、臨時2本のバッテリーで動くトロッコ電車が走るようだ。

その時は不思議と思わなかったが、帰ってこれを書き始めて、発電所を持つ会社がなぜバッテリートロッコ電車なのか調べたら納得できた。

この黒部専用鉄道高熱隧道は未だに高温地帯を通るため、ディーゼル式では引火する恐れもある。更に、高熱隧道に立ち込める硫黄で送電線を設置することができない為、電化も出来ていないと分かった。レールの腐食も早く、なんと2年ごとに交換するそうだ。

 

トンネルの奥に進むと、そこには黒部峡谷の電車より長さの短く、内装のすばらしい車両が皆を待っていた。この列車で高熱隧道を抜けるのだ。

 ワイパーがドアを除く全ての窓に設置されたトロッコ電車

  この車両に乗る前に記念撮影を1枚

私たちも3班に別れてこの耐熱性トロッコ電車に乗る。この耐熱装備にするため、1車両1000万円もかけた高価な車両である。

  皆さん結構ヘルメットが似合っています

笑顔の参加者

天井が低く座っていないと駄目なトロッコ電車は欅平上部駅を出発した。社内ではベテラン添乗員の元野主任さんが、このトンネルにまつわる話を次から次へとして話題が尽きない。約30分で高熱隧道にさしかかった。

 

欅平駅の案内板に「高熱隧道」の説明があったので紹介する。

「黒部川第三発電所工事は、昭和11年に始まった。仙人谷ダム建設のための黒部専用鉄道隧道工事では、阿曽原谷から仙人谷までのうち約500mの区間は、岩盤が65度から166度の高温で難工事を極めた。またホウ雪崩が工事用宿舎を襲うなど、困難と尊い犠牲の上、昭和15年仙人谷ダム・黒部川第三発電所は完成した。吉村昭著「高熱隧道」は、その苦労のドキュメンタリー小説である。」

  1000万円の車両の中で話は尽きない

 

現在この坑道に平行して、新黒部川第三発電所と黒部川第三発電所の導水路が2本通っているとの説明があった。そのため、熱さは当時と比べくもないが、ドアを開けるとうっすらと水蒸気が流れ、目の前の岩肌が白っぽく見える。そして、硫黄の臭いと生ぬるい熱風が入ってくる。トンネル内部は35度程度まで下がっているとの事であった。いつの間に窓ガラスが水蒸気で曇るので、大崎さんがワイパーを回すときれいに曇りは取れた。

 

そこより数分で列車はトンネルを出て屋根の架かった鉄橋の上で止まる。この区間で唯一地上に出ている場所で、仙人谷駅である。橋下の仙人谷はV字が深く刻まれている。

雨模様の朝であったが、これなら晴れそうだ。

 

橋の下はV字形の仙人谷の絶景が目の前に広がっている

上流からの排砂でほぼダム湖が埋まった仙人谷ダム。発電の機能は失われていないが、今後このダム湖の土砂をどのようにするのか、次世代につけを残すべきでないと思うが我々素人に何が出来ようか。出来るのは、これら多くの排砂により満杯に近いダムのあるこの現状を、多くの方々に知っていただくことではないか。

ここにもナンバープレートのない大型のクレーンが2台あった。元野さんに聞くと、これらも全て分解してトロッコに積んで現地で組み立て使用しているとのことであった。

 

5分間の休憩のあと、仙人谷駅を出た列車はまたトンネルに入っていった。地図を見ると、もうすぐ黒部川第四ダム地下発電所である。すると元野さんが、平成14年12月31日のNHK紅白歌合戦話を出した。すぐに中島みゆきさんを思い出した。あのシーンは今でも、ところどころ覚えている。あーこのトンネルの中で中島みゆきさんが全国に向けて「プロジェクトX~挑戦者たち~」の主題歌「地上の星」を歌ったのか。

  壁に中島みゆきさんの写真が貼ってあるとか、しかし良く見えなかった。中島みゆきさんの記念コーナー

 

そこより数分でタイル張りの立派な黒部川第四地下発電所駅にトロッコ電車は入った。列車はここで行き止まりとなっている。

  行き止まりの駅と黒部川水系の説明

これまではいかにもトンネルに居るという感じであったが、黒部川第四ダム地下発電所はどこかの本社ビルと間違うような建物であった。

2日目-3に続く。

One comment

  • izumi kouichi

    2日目-2を一気に読みました。宇奈月駅からの行程が手にとるようにわかります。文章と写真の組合せが絶妙です。何かテレビのドキメンタリーをみているような手法でせまってきます。ノンフィクションの小説を読んでいるような、旅を見事に解説されて、行った人にはお酒がのどにしみる感覚で、読む度に馥郁ふくいくたる香りが記憶の中をめぐっていきます。今回の旅でお世話になった方々と共に喜びあえるうれしさです。

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