2011年7月新潟・福島豪雨災害の特徴-その2・ダムの効果について-

 今回の豪雨でダムはどのように機能したのかという問い合わせが、私のところに寄せられる。私が従来からダムには限界があり、できればダムに頼らない方がいいと明言しているので、そういう問い合わせが来るのも致し方ないかもしれない。

そこで、まず、私のダムに対する基本的な考え方は、この川講座のはじめの方に投稿されている「ダムへの認識を改める―自然と共生する持続的社会の構築のために―」に書いてあるので、それを参考にして欲しい。ついで、今回の豪雨に関しては、五十嵐川の笠堀ダムと大谷ダムがどのように機能したかを、新潟県のホームページ「新潟県・ダムの果たした役割について(平成23年7月新潟・福島豪雨)」(この鍵カッコの文言をインターネットにそのまま打ち込めばホームページにアクセスできる)にある、笠堀ダムと大谷ダムの雨量・流入・放流・水位変化の図を参照に解説しておきたい。なお、この図をここに転写したいが、新潟県のホームページにアクセスすれば見られるので、そちらを見て欲しい。

今回の豪雨の特徴は二山あることで、洪水も二山形成されたことである。一山目は29日10時頃から19時頃までの雨で形成され、二山目は29日23時頃から30日8時頃までの雨で形成された。総雨量は新潟県の笠堀ダム観測所で976mmに達しているが、一山目の豪雨が時間雨量86mmとか77mm、74mmが記録されており、洪水も大きかった。二山目の豪雨は時間雨量57mmとか50mmを記録しているが、洪水は一山目より小さかった。この一山目の洪水に対して笠堀ダムも大谷ダムも洪水調節効果を果たし、下流の洪水ピークをかなり低減している。しかし、二山目の洪水に対しては、ダム容量を使い果たして満水となり、流入量=放流量という状態になった。

この洪水が流れ下り、30日の5時頃下田地区・江口地点(右岸)で破堤した。仮に、ダムがなかったとしたら、一山目の洪水は二山目の洪水よりかなり大きくなったものと推定でき、一山目で破堤していておかしくなく、さらにもっと他の地点でも破堤した可能性は高いといえる。江口の対岸より少し下流の左岸側では、破堤寸前のところが何箇所かあり、何とか水防活動で凌ぎきっていたので、このことは疑いないところであろう。この観点から見れば、笠堀ダムも大谷ダムも効果を果たしたといえる。

しかし、大局的に見て、ダムがあっても破堤したという事実から見れば、ダムの効果に限界があったといえる。さらに、仮に、一山目が小さく、二山目が大きかった場合、一山目でダムが満杯になり、大きな二山目をまったく調節できず、下流のあちこちで破堤が発生した可能性が高く、その場合はダムの効果はなかったことになる。

要は、ダムの設計段階で、今回のように1000mmに達するような豪雨を想定しておらず、ダムの洪水調節には限界があるということである。今回は、たまたま五十嵐川では、一山目が大きく、うまく洪水調節できたということである。今回の豪雨で、他の地域では、一山目が小さく、二山目が大きい場合もあった。そういうところでは、一山目でダムが満杯になれば、二山目で効果を発揮しなくなるということである。

2 comments

  • 佐藤 裕和

    日本の近代的治水が始まって100年ぐらいですが、この間に蓄積してきた治水のノウハウから明らかに外れる洪水を誘発する降雨が目立ってきている中、今後は多峰性かつ高強度の降雨が、広い雨域を伴って頻発する可能性もあると思います。古典的な治水策であるダムについても、その構造や運用方法を再考すべききっかけとなる水害とみています。支配面積が狭く、ピークカットしかできないのが日本のダム群ですから、経験則から外れる新しい降雨パターンが出てきたときに、どれだけ高度なパフォーマンスができるかが、今後のダム治水の評価の一端を担うことになるかと思います。

  • 大熊 孝

    佐藤裕和さん、コメントありがとうございます。あなたの指摘どおり、今回の雨は今までの傾向と少し違うように思います。2004年7・13豪雨では、雨域がせいぜい数百km2の大きさで、降雨も一山でしたが、今回の豪雨は雨域が数千km2におよび、降雨継続時間が長く、二山で、降雨強度も100mmを超えるという強さでした。これは、今後、要注意かもしれませんね。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください