天童の水便り―13

山形県・天童市で農業を営む会員の須藤敏彦さんから「天童の水便り」が届きました。

 

斉藤 茂吉 の最上川について(2)

今回も、斉藤茂吉(1882-1953)の、「白き山」から最上川を歌った短歌を紹介いたします。

実に沢山の最上川の歌に、圧倒されそうです。茂吉の歌で造語、新表現があります。

最上川(谷地) 2016.3.5撮影

最上川(谷地) 2016.3.5撮影

昭和21年作

「対岸」より

31 大川の岸の浅処に風を寒みうろくづの子もけふは見えなく

32 病より癒えて来れば最上川 狭霧のふかきころとなりつも

「浪」より

33 西田川のこほりにたどりつきしかば 白浪たぎつ岩のはざまに

34 みちのくの田川こほり海のべの 砂原こえて歩みつつをり

35 最上川の支流の岸にえび葛 黒くいろづくころとしなりて

「大石田より」より

36 最上川ながるるがうへにつらなめて 雁飛ぶころとなりにけるかも

37 最上川対岸もまた低くして うねりは見えず直ぐにながるる

38 おほどかにここを流るる最上川 鴨を浮べむ時ちかづきぬ

39 かくしつつわがおりたてば岸ひくき 最上川のみづはやくもあるか

40 ここに立ち夕ぐるるまでながめたる 最上川のみづ平明にして

41 秋ふけし最上の川はもみぢせる デルタをはさみ二流れたる

梁です 最上川右支川 小国川 2015.4.27撮影

梁です 最上川右支川 小国川 2015.4.27撮影

 

茂吉が使うデルタのイメージ    最上川右支川 乱川 山形新幹線鉄橋 2016.3.9撮影

茂吉が使うデルタのイメージ    最上川右支川 乱川 山形新幹線鉄橋 2016.3.9撮影

「しぐれ」より

42 小国川迅き流れにゐる魚を われも食ひけり山沢びとと

43 最上川の大き支流の一つなる 小国川の浪におもてをあらふ

44 この鮎はわれに食はれぬ小国川の あおぎる水に大きくなりて

「晩秋」より

45最上川の支流は山にうちひびき ゆふぐれむとする時にわが居つ

「新光」より

46 ルツクサツク負へる女に橋の上に とほりすがへり月夜最上川

47 おほどかに流れの見ゆるのみにして 月の照りたる冬最上川

48 ひむがしに霧はうごくと見しばかりに 最上川に降る朝しぐれの雨

49 最上川岸べの雪をふみつつぞ われも健康の年をむかふる

50 最上川逆白波のたつまでに ふぶくゆふべとなりにけるかも

冬の支川  最上川右支川 乱川 2015.12.31撮影

冬の支川  最上川右支川 乱川 2015.12.31撮影

ようやく「最上川逆白波のたつまでに ふぶくゆふべとなりにけるかも」

に到達しました。昭和21年作もこれでおわりです。

造語は「逆白波」です。北 杜夫著 「茂吉晩年」 には「茂吉はその後も雪の降り乱れる最上川を幾度となく見たのだろう。そして{逆白波}という造語を苦心して編みだしたと思われる。」

 

斉藤茂吉記念館編

斉藤茂吉 歌集 白き山 研究 には

「内田友子氏は

昭和3年に 茂吉作で

東風ふきつのりつつ今日一日最上川に

白き逆波たつも

と指摘している。」

 

私が付けた番号の23番「 最上川の上空にして残れるは いまだうつくしき虹の断片」の 「虹の断片」について

虹の断片という鋭くしかも抒情をたたえた表現は、おそらく空前のもので

短歌史上に記憶されてよい佳品である。

デルタ の表現は、一般に 河川の河口に現れるものですが、最上川の

勾配がやや急な地点から、勾配の緩やかになった地点に現われる、幾筋の

流れと考えられます。

と解説しています。

順番が逆ですが

2番の「紅色の靄」は、23首の連作です。虹の色、紅、薄紅、黄、など天然色がきれいです。

季語、新表現については、まだ研究中です。

 

次回は、茂吉をお休みにして、真壁 仁 などの 作品を紹介いたします。

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